一橋大学

EUワークショップ 2020年6月3日 報告者コメント

2020年6月17日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

EU Workshop コメント

EUワークショップ202063

法学研究科博士後期課程 川上愛

博士課程の川上です。国際人道事実調査委員会(IHFFC)の非国際的武力紛争や非国家主体への調査対象の拡大の可能性を今回は発表しました。

ジュネーブ諸条約第一追加議定書の条文によって設立されたIHFFCですが、1991年に設立された後に長くの間活用されることはなく、2017年になって初めてウクライナ東部でOSCEの停戦監視ミッションの車両が受けた地雷攻撃について活動を行いました。この活動が調査なのか斡旋なのかは明らかではありませんが、(調査は行われませんでしたが)2015年のアフガニスタンで国境なき医師団の活動する病院が米軍によって誤爆された事件も合わせると、非国際的武力紛争にもIHFFCは積極的に権限を拡大し、その調査を要請する主体についても国家に限定されないとする独自の見解を強化しているように思えます。

また、博士論文の構想として国際人権法と国際人道法の関係は非司法的実務レベル(履行確保制度や実行)から補完論から統合論に向かっているのではないかという考えを発表させていただきました。戦後の正義(jus post bellum)という新たな法分野を創設する動きもありますが、一方で独自の新しい規範を生み出すというものよりは既存の各法分野の調整に留まるものだという批判もあります。これについて私は補完や特別法優先原則などではなく、さらに高度な統合が起きているのではないかと考えています。

これについて両法の統合は武力紛争前(jus ad bellum)と紛争後にも影響をするのか―つまり、国際人道法が武力紛争外の文脈にも適用される・若しくは影響を持つのか―についても質問を頂きました。これについては武力紛争中と武力紛争後(復興)に時間的適用範囲を限定して研究を行いますが、国際人道法を修正して国際災害法を構想していこうとする動きや自然災害後に発生する暴動を阻止すべく国際人道法の基本ルールを教育に取り入れようとする動きもありますので、いつかはより広い視野で両法の統合が起きる可能性について検討していきたいと思います。

また、IHFCCと旧ユーゴスラビアとルワンダの専門家委員会との対比、IHFCCがなぜ活用されなかったかについても、その後の事実調査委員会の発展やICCとの関連で両法の関係を今後明らかにする予定です。