一橋大学

EUワークショップ 2020年10月21日 報告者コメント

2020年10月22日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

報告者:小笠原宏輝(国際・公共政策大学院(IPP1年)

IPP1年の小笠原です。今学期一回目の報告を担当させていただきました。今回のテーマは「自律型致死兵器システム(Lethal Autonomous Weapons Systems, LAWS)と上官責任の法理」でした。以下では本日の報告内容の概要を紹介させていただきます。

まずLAWSにつきまして、未だに国際的に統一された定義はありませんが、おおよそ「一旦起動されれば、人間のオペレーターによる更なる介入が無くとも標的を選択し、攻撃することができる兵器システム」であると考えられています。今後このような兵器システムが開発・使用された場合に生じ得る多くの問題のうちの一つが、LAWが国際刑事法上の犯罪に該当する行為を行った場合の刑事責任のあり方です。

詳細には立ち入りませんが、例えばLAWSが文民を標的として選択・攻撃した場合(ICC規程8(2)(b)(i))、プログラマーや指揮官が意図的にそのような指示を与えたのでなければ「故意」を欠くことから戦争犯罪は成立せず、常にそうした行為が不処罰とされることになります。その結果、将来の違法行為の抑止や被害者の尊厳の回復といった機能は意味をなしません。

こうした問題に対し、現在解決策の一つとして検討されているのが「上官責任の法理(ICC規定28条)」の応用です。この法理は①犯罪の実行犯と被告人の間に部下と上官の関係が存在し、②部下が犯罪を行おうとしていること又は行ったことを、上官が実際に知っていた又は知りうべきであった場合に、③具体的状況下で、上官が事前に権限内のあらゆる防止措置をとらず、又は事後に知ったときに当該部下を処罰しなかったことに対して上官に責任が生じるというものです。この法的性質については争いがありますが、同法理では上官に必ずしも「故意」が必要とされないことから、その応用可能性が議論されています。

しかしながら、そもそもLAWSが人間ではないことやICC規程28条の文言・要件を踏まえると、現時点では上官責任の法理をそのまま適用することは難しいと考えられます。今後、どのような法律構成なら上官責任の法理を応用できるのか、またその他にLAWSと刑事責任の問題を解決する手段はあるのかについて、引き続き研究していきたいと思います。

本日の報告に対しては、民事責任等との関係やICC規程25条の問題、民間の自動運転技術の参照についてなど、多くのコメント・アドバイスをいただきました。見落としていた点や理解が曖昧だった点を認識することができましたので、ぜひ今後の研究に活かしていきたいと思います。本日はありがとうございました。