一橋大学

2017年7月5日 EUワークショップ 学生コメンテーター報告

2017年8月28日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

 

法学研究科法学・国際関係専攻博士後期課程

 

石井雅浩

 

 

今回は75日に行われたEUワークショップにおける法学研究科修士課程の廖虹嫣さんによる「ヨーロッパ市民社会における環境政策分野への市民参加」報告と国際・公共政策大学院修士課程の飯田萌さんによる「ASEMの意義と課題」報告とについて、コメンテーターとして報告します。

 

 

廖報告

 

廖さんは、環境政策分野における市民参加に関心をお持ちです。本報告では市民、市民社会、公共圏、社会関係資本、参加といった諸概念の概念整理や欧州における環境分野での市民参加枠組みの事例としてオーフス条約及びEUの水政策枠組み指令を紹介されました。

 

 

廖さんは、先行研究にあたり、「市民」、「市民社会」、「公共圏」、「社会関係資本」、「参加」といった諸概念がどのような相互関係にあり、現代の「市民社会」像を理解する前提となる分析枠組みの可能性を検討されました。そのうえで、関心の焦点である環境分野において先駆的な取り組みが多い欧州においてどのような市民社会の参加が制度化されているのかについて、国際環境法である「オーフス条約」とEU指令である「水政策枠組み指令(Directive 2000/60/EC)」における市民参加に関する諸規定を紹介し、これを扱った既存の国際研究プロジェクトHarmoniCOPの成果を検討されました。

 

 

報告後の質疑応答では、修士課程における初回の報告ということも踏まえ、研究関心の更なる具体化や今後の研究手法に関する廖さんの考えを確認しながら、様々な可能性が提案されました。例えば、国際行政法分野での「公共財」に関する先行研究や甲斐国の信玄堤を越境的な安定装置として紹介しつつ、ライン川やドナウ川などの事例と共通性などがありえないのかといった提起がなされ、またシンクタンクやロビー団体といったアクターの関与のあり方、ヨーロッパレベルとローカルレベルの差異からの視座、EU法の発展との関係、などが挙がりました。今後の研究の進展が期待されます。

 

飯田報告

 

飯田さんは、アジアと欧州における地域統合に関心を持たれています。本報告では、EUASEANという対照的な地域統合組織の発展過程におけるアジア欧州関係に着目し、首脳対話の場であるASEMAsia Europe Meeting)におけるASEAN Wayの役割を検討されました。

 

 

飯田さんは、ASEMがどのような経緯で開催されるに至ったかという歴史的背景、前史としてのEU-ASEAN関係史、ASEMの枠組みとしての役割と特徴を先行研究や2次資料等にあたり確認されました。そして、ASEAN Wayが意思決定方式に採用されたことが持つ意義について、第1回会合の成果である議長声明の人権分野に関する記述に着目されました。また、開催を重ねるごとにASEMの位置付けや役割に変化が生じているという指摘をされました。

 

 

報告後の質疑応答では、フォーラムとして20年継続してきた意味、ASEMという枠組みが国際政治上の場としてどういった特徴を有しているのか、国際政治の同時代性との関係、参加国の有する課題や各国の指導者の考え、参加国の本気度、場の空気・雰囲気といった要素の濃淡の存在とその影響、本会合のマージンで開催されるバイやマルチ会合の有する意味や本会合との関係、開催地や開催年と最終成果の関係、意思決定過程の意味、加盟国拡大の意味といった様々な問題提起や提案がなされました。また、小川先生が97年第2回会合に参加された際の経験も共有していただきました。今後の研究の更なる進展が期待されます。