一橋大学

2017年7月19日 EUワークショップ 報告者コメント

2017年8月3日中西優美子(Yumiko NAKANISHI)

 

法学研究科博士課程の菅沼と申します。

 

7月19日のEUワークショップでは、「ドイツにおける『憲法の前提』論と宗教の自由」という論題のもと、2008年ドイツ国法学者大会のクリストフ・メラース報告を中心に検討いたしました。

 

 

私のこれまでの研究は、ドイツの刑法典上に存在する信条冒涜罪(刑法166条)を憲法学の視座から検討するというものでしたが、信条冒涜罪の議論のなかで言及される「憲法の前提」論の議論を十分に検討しきれていないという課題を抱えていました。

 

そこで、本報告では、「憲法の前提」論と宗教の自由の関係について考察を深めるための足掛かりとして、2008年のメラースの国法学者大会報告の検討に取り組むことにいたしました。

 

 

本報告では、メラースの国法学者大会が行なわれるまでの時期の欧米圏における宗教と公共性をめぐる議論動向の変化を、ハーバーマスの論調の変化に着目し、概観しました。

 

ハーバーマスは、従来は世俗主義の見解をとったうえで公共性の可能性を追求してきたものの、近年では、宗教的観点から公共性の可能性を改めて問い直そうとしているといった変化が見られます。

 

そのような、近年のハーバーマスの宗教に対する見方の変化のなかで、国法学者・元連邦憲法裁判所判事のベッケンフェルデの世俗化テーゼ(自由な世俗化された国家は、自らが保障することのできない諸前提によって存立するが、このことが、国家が自由のために引き受けた大きな冒険である、というもの)を吟味していることは、憲法学にとっても興味深いところです。

 

メラースは、「憲法の前提」論についてかねてより主著のなかで懐疑的な立場をとってきましたが、国法学者大会においてもメラースが「憲法の前提」概念への異議申し立ての主張が見られました。

 

 

本報告に対しては、人権思想・憲法とキリスト教の関係や、ドイツの「憲法の前提」論をフランスなどの政教関係が異なるヨーロッパ諸国との比較について、国法学者大会で「憲法の前提」論と宗教の自由の関係が取り上げられたのは何故か、等の質問や示唆をいただきました。

いただいたご指摘を今後の課題として吟味するとともに、今回十分に検討しきれなかった本報告の主題についてさらなる考察を深めていきたいと思います。